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東京地方裁判所 昭和57年(タ)487号 判決

原告(反訴被告) 甲野太郎

右訴訟代理人弁護士 黒須雅博

被告(反訴原告) 甲野花子

右訴訟代理人弁護士 山岸文雄

同 山岸哲男

同 山岸美佐子

主文

一  原告(反訴被告)と被告(反訴原告)とを離婚する。

二  原告(反訴被告)のその余の本訴請求及び被告(反訴原告)のその余の反訴請求をいずれも棄却する。

三  原告(反訴被告)から被告(反訴原告)に対し別紙目録記載の不動産につき、その所有権の三分の一を分与する。

四  原告(反訴被告)は被告(反訴原告)に対し別紙目録記載の不動産につき、財産分与を原因とするその所有権の三分の一の移転登記手続をせよ。

五  訴訟費用は本訴反訴を通じてこれを二分し、その一を原告(反訴被告)の負担とし、その余を被告(反訴原告)の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

(本訴請求)

一  請求の趣旨

1 原告(反訴被告。以下「原告」という。)と被告(反訴原告。以下「被告」という。)とを離婚する。

2 被告は原告に対し金五〇〇万円を支払え。

3 訴訟費用は被告の負担とする。

との判決並びに2につき仮執行の宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

1 原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

(反訴請求)

一  請求の趣旨

1 被告と原告とを離婚する。

2 原告は被告に対し金五〇〇万円を支払え。

3 原告から被告に対し別紙目録記載の不動産(以下「本件土地、建物」という。)を分与する。

4 原告は被告に対し本件土地、建物につき、財産分与を原因とする所有権移転登記手続をせよ。

5 訴訟費用は原告の負担とする。

との判決並びに2及び5につき仮執行の宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

1 被告の反訴請求を棄却する。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

第二当事者の主張

(本訴請求)

一  請求原因

1 原告と被告は、昭和三八年二月二〇日婚姻届出を了した夫婦である。

2 被告は、昭和四七年ころから三味線の教授をしていたが、昭和五四年ころから三味線の弟子であった訴外乙山春夫(以下「訴外乙山」という。)と情交関係を有するようになった。

3 原告は、昭和五五年八月に至り被告と訴外乙山との不審な関係に気付き、被告に再三訴外乙山との関係を断つよう要請したが、被告は、訴外乙山のマンションに泊るなどして同人との情交関係を継続した。

このため、原告は、昭和五六年二月ころ訴外乙山及び同人の妻子並びに被告を交えて話し合った結果、同年三月二日訴外乙山から、被告との不貞行為による慰謝料として金一、〇〇〇万円を受け取った。

4 被告は、その後も外泊を重ね、原告に対して離婚を求め、かつ、不当な財産分与を要求したばかりか、更に包丁を持ち出して原告に突きつけるなどの行為に及んだため、原告は、やむなく昭和五六年九月二〇日家を出て被告との離婚を決意するに至り、同年一〇月八日東京家庭裁判所に離婚の調停を申し立てた。同調停において被告は離婚に同意したものの財産分与につき合意に達し得ず、昭和五七年三月八日調停は不成立に終った。

5 以上のとおり、原被告の婚姻は、被告の不貞行為により破綻しており、原告は民法七七〇条一項一号及び五号により被告との離婚を求める。

6 また、本件離婚は、被告の前記不貞行為によるものであって、原告は多大の精神的苦痛を蒙っているから、その慰謝料として金五〇〇万円を請求する。

7 よって、原告は被告に対し、原被告の離婚と慰謝料金五〇〇万円の支払を求めるため、本訴に及んだ。

二  請求原因に対する認否及び反論

1 請求原因1の事実は認める。

2 同2の事実中、被告が昭和四七年ころから三味線の教授をしており、訴外乙山がその弟子であったことは認めるが、その余は否認する。

3 同3の事実中、訴外乙山が昭和五六年三月二日原告に対し金一、〇〇〇万円を交付したことは認めるが、その余は否認する。

4 同4の事実中、被告が外泊したことがあること(ただし、それは原告の暴力から避難するためであった。)、被告が原告に離婚を求めたこと、原告が昭和五六年九月二〇日家を出たこと、原告が離婚の調停を申し立てたが、不成立に終ったことは認めるが、その余は否認する。

5 同5の主張は争う。

6 同6の慰謝料の主張は争う。

7 被告と訴外乙山との間に情交関係はなく、原告は、その異常性格に基づきいわれのない妄想にとりつかれているとしか考えられない。訴外乙山が金一、〇〇〇万円を支払った件は、原告が被告と訴外乙山との仲を邪推し、訴外乙山の家に押しかけ、その家族の前で異常かつ威嚇的な言動を示したため、これに困惑した訴外乙山が、とりあえず原告の幻覚による粗暴な振舞いを収めるため、一時原告に渡したものにすぎない。そのため、被告は、訴外乙山からの返還請求により昭和五六年一〇月三〇日金一、〇〇〇万円(原告が内金二〇〇万円を家のローン返済に費消していたので、残金八〇〇万円に被告が金二〇〇万円を工面した。)と訴外乙山に返還した。

原告には、時として、発作的ともいえる異常な言動がみられ、例えば、夜中に突如起き上り、二階の小窓から泥棒が侵入して来るとわめきながらバットを振り回したり、原告の枕元に棒立ちになり、虚空の一点を見すえて全身をけいれんさせ、顔面はそうはくで歯をくいしばり、目覚めて起き上った被告に襲いかかったり、就寝している被告の布団を突如無言で足許からめくり上げ、被告の顔を布団で押さえ込んだまま、被告の下半身を調べたりなどの所為があり、被告は恐怖心から寝巻き姿のままはだしで外に飛び出して逃げたことも何度かあった。また、原告は、人前でも被告の髪の毛を持って部屋中引き回し、殴る蹴るの乱暴狼藉に及んだことがあり、被告は、右のような原告の異常行動から逃れるため、時に自己の妹の家などに避難し、泊めてもらったこともあった。

(反訴請求)

一  請求原因

1 本訴請求原因1に同じ

2 原被告間には、婚姻を継続し難い重大な破綻がある。すなわち、

(一) 原被告は、被告肩書住所地の原告名義の本件建物に居住していたが、原告は、被告に無断で昭和五六年九月二〇日家出し、現在まで別居状態が続いている。原告は、婚姻費用の分担をしないばかりか、本件建物の公租公課はもちろん、自己の国民健康保険料に至るまで被告に負担させている有様である。

(二) 原被告は、甲野印刷の名称で印刷業を営み、その収益から毎月金八万円を被告に支払う約束になっていたが、前記別居によりその収入も途絶えた。

(三) 被告は、本件建物で弟子を集め三味線の教授をして生計の足しにしていたが、原告は昭和五六年一〇月一日被告が弟子四名に三味線の教授をしていたところに、原告の弟子二人及び原告代理人弁護士とともに押しかけ、原告の所有物を持ち出すといって、甲野印刷の帳簿、備品類及び原告の身の回りの物を持ち出した。そのやり方は、粗暴であって、三味線のけいこどころではなくなり、被告において警察を呼ばざるを得ないほどであった。三味線の教授は世間の信用の上に仕事が成り立っているものであるが、原告は、何の予告もなくいきなり押しかけてきたのであり、この混乱のために、被告は永年に亘って築いてきた名声、信用を失い、同時に多くの弟子をも失う結果となった。

3 被告は、右のような原告の有責な行為によって離婚を余儀なくされ多大の精神的苦痛を蒙っており、本件離婚に伴う慰謝料として金五〇〇万円を請求する。

4 被告は、本件離婚に伴い本件土地、建物の分与を求める。

本件土地、建物は、昭和五一年一二月二〇日原被告において代金二、三〇〇万円で訴外戊田商事株式会社から買い受け、原告名義で所有権移転登記を受けたものであるが、右の内金一、〇〇〇万円は、従前被告が買い求めた江戸川区《番地省略》所在の土地、建物(以下「従前の土地、建物」という。)の売却代金をもってこれに充て、残金一、三〇〇万円は訴外墨田信用組合から借り入れた。右ローン返済は毎月金一四万円位であったが、内金八万円は、原被告が共同で営業していた印刷ブローカーの仕事から被告に支払われるべき給料相当分をこれに充て、残りを原告が負担した。原告は、昭和五七年一月分以降のローン返済をなさず、そのため、連帯保証人の訴外丙川松夫が残額金四二八万円を同年七月二日代位弁済し、訴外丙川に対しては被告が返済をなしている。また、前記のとおり、原告は、訴外乙山から受け取った金一、〇〇〇万円の中から金二〇〇万円をローン返済に充てているが、その後被告において右金二〇〇万円を含めた金一、〇〇〇万円を訴外乙山に返済しているから、結局、右金二〇〇万円も被告が負担したことになる。

右のような事情に、原告が昭和五一年に本件土地、建物を購入して以来、前記別居するに至るまで生活費を全く入れていないこと、被告は、本件土地、建物で三味線を教えて収入を得てきたのであり、将来もそれにより生計を立てる必要があることなどの点からすれば、本件土地、建物は被告に分与するのが相当である。

5 よって、被告は原告に対し、原被告の離婚と慰謝料金五〇〇万円の支払を求めるとともに、本件土地、建物を被告に分与することを求める。

二  請求原因に対する認否及び反論

1 請求原因1の事実は認める。

2 同2(一)の事実中、原被告が本件建物に居住していたところ、原告が昭和五六年九月二〇日家出し被告と別居したことは認めるが、その余は否認する。原告が家を出たのは、被告から包丁を突きつけられ身の危険を感じたことと、それまで被告から原告の仕事を妨害すると再三言われ仕事に支障をきたす虞れがあったからである。また、本件土地、建物の公租公課、国民健康保険料はいうに及ばず、電気、ガス、水道、電話に至るまですべて原告が負担していた。

同2(二)の事実は否認する。印刷の仕事は原告がしていたのであり、被告は原告の外出中に、得意先からの電話を取り次ぐ程度の手伝いをしたにすぎず、また、被告のいう毎月金八万円の支払というのは、経理面に明るかった被告の勧めで税金対策上専従者控除として計上されているだけで(ただし、額は不明)、実際に支払われるというものではなかった。

同2(三)の事実中、被告が本件建物で三味線の教授をしていたこと、原告が昭和五六年一〇月一日原告の帳簿類及び身の回り品の一部を持ち出したこと、当日三味線のけいこをしていた被告が警察を呼んだことは認め、その余は否認する。被告が弟子を失ったのは、被告と訴外乙山との不貞行為が弟子の間に知れるに至ったためである。

3 同3の慰謝料の主張は争う。

4 同4の財産分与の主張は争う。

原被告は、婚姻後共稼ぎをしながら二人の収入で家計をやり繰りし、かつ預金をする生活を続け、昭和四一年一月二一日訴外丁原竹夫から従前の土地、建物を代金一八五万円で買い受けたが、その頭金一〇〇万円の内金五〇万円は右預金から支払い、残金五〇万円は原告が親から貰い、残余の金八五万円は昭和四一年から昭和四四年にかけ原告が毎月金二万五、〇〇〇円ずつを分割して支払った。その後、原告は、独立して印刷業を営み、被告は、三味線の教授をするようになり、昭和五一年一二月二〇日訴外高木商事株式会社から本件土地、建物を代金二、一〇〇万円で買い受けた。同代金の頭金一、〇〇〇万円は原告名義の従前の土地、建物の売却代金をもってこれに充て、残代金については、原告が訴外墨田信用組合から金一、三〇〇万円(残代金一、一〇〇万円と歩積預金のための金二〇〇万円)を借り入れ、これに充てた。原告は、右ローン返済を昭和五六年一二月まで原告の印刷業の収入から継続的に行い、その支払った元利合計は金一、三二六万一、四九六円となった。

ところで原被告は、昭和五二年半ばころから不仲となり、食事、洗濯は別々で、生活費も自分の分は自分で出すというようになり(ただし、電気、水道、電話、健康保険、固定資産税、火災保険などの支出はすべて原告が負担した。)、日常生活面のみならず経済面でも別々の状態となった。昭和五一年ころ以降の原被告の収入についてはそれほどの差はなかったところ、原告は、酒も飲まず、ギャンブルもせず堅実な生活をしてきたが、前記ローンの支払い及び公租公課、光熱費の負担等で預貯金はなく、一方、被告は、自己の収入でゴルフ、スキー、旅行等と派手な生活を送り、また、相当額の預貯金も有している。

以上のとおり、被告が寄与加功した分は従前の土地、建物に関し多少あったものの、本件土地、建物は基本的に原告において形成した財産というべきであり、被告が自己の預貯金を明らかにしないまま、本件土地、建物について財産分与を求めるのは不当である。

第三証拠《省略》

理由

一  《証拠省略》によれば、原告と被告が昭和三八年二月二〇日婚姻の届出を了した夫婦であることが認められ、この認定に反する証拠はない。

二  離婚請求について

本件においては、原告は、本訴において被告の不貞及び婚姻の破綻を理由に離婚を求め、被告は、反訴において婚姻の破綻を理由に離婚を求めている。

かかる場合には、婚姻の破綻を理由とする離婚の点において双方の意思は一致しており、婚姻の継続が望めないことは明らかであるから、協議離婚制度を採用する法の趣旨に則って考えてみると、特段の事情のない限り、夫婦関係の内容に立ち入って判断するまでもなく、婚姻を継続し難い重大な事由があるものとして、本訴、反訴とも離婚請求を認容することができると解するのが相当である。

右の理は、たとえ被告の不貞が認められ、被告が有責配偶者といえる場合でも同様である。けだし、有責配偶者からの離婚請求が排斥されるのは、婚姻の継続を望む有責でない配偶者の利益を保護しようとする信義則上の理由に基づくものであるから、該配偶者が離婚の意思を明らかにしている以上、有責配偶者の離婚請求を排斥する根拠が失われるからである。

したがって、本件においては、その余の点について判断するまでもなく、本訴及び反訴に基づき、原被告の離婚を肯認することができるというべきである。

三  慰謝料請求について

1  原告の慰謝料請求について判断するに、《証拠省略》を総合すれば、被告は、昭和四七年ころから自宅で三味線の教授をして収入を得るようになったが、昭和五二、三年ころから訴外乙山と知り合うようになり、同人が被告の三味線の弟子になったこともあって、一緒にスキーやゴルフに出かけ、また、訴外乙山所有のマンションの一室を借りて、被告において時折同所を宿泊に利用することもあったこと、原告は、被告が昭和五六年二月一五日の夕刻右マンションに入り、その後訴外乙山も右マンションに入り、翌一六日朝方二人揃って自動車に同乗しスキー場に出発したことを現認したこと、一方、原告と被告は、昭和五二年ころから不仲となり、同一家屋内に居住しているものの、食事や洗濯その他日常生活のすべてが別々になり、いわゆる家庭内離婚の様相を呈していたこと、原告は、被告と訴外乙山との不貞が原因していると考えるに至り、昭和五六年二月一六日ころ被告と訴外乙山に不貞関係を詰問したところ、訴外乙山は、「自分が悪かった。自分に全部の責任がある。」旨発言したこと、その後、訴外乙山の妻や長男も加わって話合いをするうち、原告において金一、〇〇〇万円の支払を求め、訴外乙山はこれを承諾し、同年三月二日原告方に現金一、〇〇〇万円を持参し、原告にこれを渡したこと、その際、原告は「不貞行為の慰謝料として金一、〇〇〇万円を受け取る。」旨の領収証を作成して訴外乙山の面前に出したこと、原告は、右金一、〇〇〇万円の内金二〇〇万円を本件土地、建物のローンの返済に充て、残金八〇〇万円を保管していたところ、被告は、同年一〇月三〇日右残金八〇〇万円に自ら工面した金二〇〇万円を加えた金一、〇〇〇万円を勝手に訴外乙山に返還したこと、そのため、原告は、昭和五七年八月被告に対し右金八〇〇万円の支払を求める損害賠償請求の訴えを東京地方裁判所に提起し、昭和六〇年一二月四日勝訴の判決を受けたこと、被告は、これを不服として控訴したが、昭和六一年七月三〇日東京高等裁判所は控訴棄却の判決を言い渡したこと、以上の事実を認めることができ(る。)《証拠判断省略》

右認定事実によれば、被告と訴外乙山との間には不貞行為があったものと推認することができる(なお、原告の粗暴な振舞いを収めるため、とりあえず訴外乙山が現金一、〇〇〇万円を出したにすぎない旨の被告の主張は、不自然であって到底採用し難い。)。しかしながら、本件では、原告の自認するように既に原告は訴外乙山から金一、〇〇〇万円の慰謝料を受領しているわけであるから、その金額に鑑みれば、原告の慰謝料については共同不法行為者の一方から既に全額填補済になっているといわざるを得ない。

してみれば、原告の被告に対する本件慰謝料請求は理由がないことに帰する。

2  次に、被告の慰謝料請求について判断するに、前認定の経緯のもとにおいて、原被告間に紛争が生じているところ、本件全証拠によるも、被告の慰謝料請求を相当とするような事由は認められないから、この点の被告の主張は採用できない。

四  財産分与について

前認定事実に、《証拠省略》を総合すれば、原被告は、婚姻後いわゆる共稼ぎの生活を続け、アパート暮らしをしていたが、昭和四一年一月従前の土地、建物を代金一八五万円(ただし、契約書上は代金一三〇万円)で買い受け、原告名義で所有権移転登記を受けたこと、右購入費用の頭金は、原被告の預貯金等をもってこれに充て、残金は原被告の収入から分割返済したこと、原告は昭和四五年ころから印刷業の仕事を、被告は昭和四七年ころから三味線教授の仕事をするようになり、当時収入は合算して生活費に充てたこと、原告は昭和五一年一二月本件土地、建物を代金二、一〇〇万円で買い受けたが、頭金一、〇〇〇万円は従前の土地、建物の売却代金をもってこれに充て、残金は原告が訴外墨田信用組合から借り受けた金一、三〇〇万円(内金二〇〇万円は歩積預金させられたもの。)で支払ったこと、右信用組合に対するローン返済は、原告が印刷業の収入から行い、被告の三味線教授の収入から支払ったことはないこと、原被告は、昭和五二年半ばころから不和が表面化し、食事等の日常生活が全く別々になるのに伴い、各人の支出すべき分は各人の収入からまかなうことになったこと、もっとも、原告は、前記のローン返済を昭和五六年一二月分まで自己の印刷業の収入から行い、また、同年九月二〇日に原告が家を出て別居するまでの水道、電気、電話、国民健康保険、固定資産税等の支払いも原告がその収入から行ったこと、原告の印刷業に対する被告の寄与は、原告外出中の電話の取り次ぎ程度の域を出なかったこと、被告は原告の印刷業の収入から帳簿上一か月金八万円の給与を受けることになっていたが、それは税金対策上専従者控除として計上されていたものにすぎず、実際に被告が稼働して支払われるというものではなかったこと、原告が前記ローン返済を昭和五七年一月以降しなかったため、連帯保証人であった訴外丙川松夫(被告の義兄)が同年七月二日残額金四二八万円位を代位弁済したこと、原告には、本件土地、建物以外にめぼしい資産はなく、一方、被告には、多少の預貯金(ただし、証拠上金額を確定できない。)はあること、以上の事実を認めることができ(る。)《証拠判断省略》

右認定事実によれば、従前の土地、建物については、原被告の各潜在的持分が五〇パーセントずつになると推定すべきであり、そうすると、本件土地、建物購入に際し、頭金一、〇〇〇万円の内金五〇〇万円は被告が負担したことになる。しかしながら、本件土地、建物のローン返済は、昭和五六年一二月まで原告の印刷業の収入からなされており、前認定の事情を考慮すると、その間の被告の寄与割合は、せいぜい一〇パーセント程度にとどまるというべきである。してみれば、本件土地、建物の購入代金二、一〇〇万円のうち、訴外丙川が代位弁済した分(被告がこれを訴外丙川に返済したことを認めるに足りる証拠はない。)を除く残余の部分の負担割合は、おおよそ原告が三分の二、被告が三分の一になるということができる。

なお、前記認定の事実関係のもとにおいては、本件では扶養的財産分与に対する斟酌は必要なく、また、過去の婚姻費用分担に対する配慮も不要である。

右説示した点に、その他諸般の事情を考慮すると、本件においては、原告から被告に対し、本件土地、建物の所有権の一部三分の一を分与するのを相当と認め、原告にその旨の所有権一部移転登記手続を命ずることとする。

五  よって、原告の本訴請求及び被告の反訴請求のうち、離婚を求める部分はいずれも理由があるのでこれを認容し、その余の慰謝料請求の部分はいずれも理由がないからこれを棄却し、財産分与については原告から被告に対し、本件土地、建物の所有権の一部三分の一の分与を相当と認め、被告にその旨の移転登記手続をなすことを命ずることとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 武田聿弘)

〈以下省略〉

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